季節の変わり目は、私たち人間だけでなく、犬や猫にとっても体調を崩しやすい時期です。特に朝晩の冷え込みと日中の暖かさが大きく異なる時期には、呼吸器系のトラブルが増える傾向にあります。
「咳をしている」「鼻水が出ている」などの軽い症状でも、放っておくと肺炎や気管支炎といった深刻な病気に進行する可能性があります。
そこで今回は、季節の変わり目に注意したい呼吸器疾患と、日常でできる予防ケアについてわかりやすくご紹介します。
■目次
「呼吸器」とは、鼻・喉・気管・気管支・肺など、呼吸に関わる器官のことを指します。これらの部位に起こるトラブルはさまざまで、軽いくしゃみや鼻水から、気管支炎や肺炎のような深刻な病気まで幅広く存在します。
▼気管支炎についてはこちらで解説しています
犬や猫は人に比べて体が小さく、呼吸の回数も多いため、ほんの少し炎症や腫れが起きるだけでも呼吸が苦しくなりやすいのが特徴です。
また、症状がいくつか同時に出たり、段階的に悪化したりすることもあります。たとえば、最初は乾いた咳だったのが、次第に粘り気のある咳へと変わったり、鼻水のせいでごはんの匂いがわからず食欲が落ちたりするケースも少なくありません。
呼吸器のトラブルは、ひとつの理由だけで起きるとは限りません。気温差・感染・アレルギー・体質などが重なって起こることが多いです。
1. 気温差や乾燥
急な寒暖差は体温調節にエネルギーを使わせ、免疫の働きが一時的に落ちることがあります。
さらに、空気が乾燥していると、鼻や喉の粘膜(外敵から体を守るバリア)が弱くなり、刺激物や病原体が入り込みやすくなります。
2. ウイルス・細菌感染
犬では犬伝染性気管支炎(ケンネルコフ)や犬パラインフルエンザなど、猫では猫風邪(ヘルペスウイルス・カリシウイルス)が有名です。
ドッグランや預かり施設、譲渡会などで他の動物と接触する機会が増えると、うつりやすくなります。
▼犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)についてはこちらで解説しています
3. アレルギーや刺激物
花粉やハウスダスト、カビ、タバコの煙、強い芳香剤などの刺激で、気道が敏感になり咳やくしゃみ、鼻水が長引くことがあります。
掃除や換気、禁煙などの環境整備が効果的です。
▼アレルギー対策についてはこちらで解説しています
4. 先天的・慢性的な要因
短頭種(パグ、フレンチ・ブルドッグ、シーズーなど)は、もともと気道が狭いため、呼吸器のトラブルを起こしやすい体のつくりをしています。
また、小型犬に多い「気管虚脱(気管が押しつぶされやすくなる状態)」や、年齢を重ねることで低下する抵抗力、さらには歯周病が鼻や上あごへ広がることも、呼吸器の不調を悪化させる原因になります。
▼気管虚脱についてはこちらで解説しています
呼吸器の病気を早く見つけるために、次のような変化がないか日頃からチェックしてみましょう。
・咳:乾いたコンコン咳、就寝前や運動後に悪化、えづくような咳き込み
・鼻・目:鼻水(透明〜黄色)、くしゃみ、目やに
・呼吸:呼吸が速い・浅い、胸やお腹を大きく動かして呼吸する、ゼーゼー・ヒューヒュー音
・全身:元気・食欲の低下、熱っぽい、遊びをすぐやめる、飲水量の変化
猫は鼻が詰まるとごはんを食べられなくなることが多いため、丸1日以上まったく食べない場合はすぐにご相談ください。
当院では、以下のような検査や治療を通じて、犬猫の呼吸器トラブルに対応しています。
まずは問診とあわせて、以下のような検査を行い、原因や重症度を見極めます。
■ 視診・触診・聴診
呼吸音・心音・鼻や喉、口腔内の状態などを丁寧に確認します。
■ 画像検査
レントゲンで肺や気管支の状態を評価し、気管虚脱の有無もチェックします。必要に応じて、超音波検査やCTなどの詳細な検査もご提案します。
■ 血液・便・酸素飽和度などの検査
炎症や脱水の有無を確認する血液検査、ウイルスや細菌感染の有無を推定する迅速検査、寄生虫や消化状態を調べる便検査、酸素飽和度の測定などを症状に応じて行います。
症状や原因に応じて、以下のような治療法を組み合わせて行います。
■ 内科的治療
抗菌薬、去痰薬、咳止め、消炎薬などを、調整しながら使用します。
■ 吸入療法・ネブライザー
微粒子化した薬液を吸入させ、喉や気管支に直接作用させる治療法です。
■ 支持療法
酸素室での呼吸サポートや、点滴による脱水の改善、栄養や水分の管理も重要です。
■ リハビリ・物理療法の併用
回復期にはレーザー治療などで炎症を和らげ、無理のない活動再開を支援します。必要に応じて、鍼治療やオゾン療法などの補助的な選択肢もご提案可能です。
■ ご家庭でのケア指導
室温・湿度の管理、加湿や掃除のコツ、他の動物との接触管理など、日常生活の中でできる予防策もお伝えします。
呼吸器の病気を防ぐには、毎日のちょっとした工夫が大切です。無理なく取り入れられることから始めてみましょう。
■ 室内の温度と湿度を整える
急な温度変化は気道に負担をかけます。室温は20〜25℃、湿度は40〜60%を目安にしましょう。
そのうえで、エアコンや加湿器をうまく活用しながら、寝る場所やケージを風が直接当たらない位置に調整しましょう。
また、夜間の冷え込みが強い日は、首もとや胸まわりを温めるような寝具の工夫も効果的です。
■ 乾燥対策と清潔環境を
乾燥は粘膜バリアを弱めます。
加湿器にくわえ、こまめな換気・拭き掃除でハウスダストや花粉、カビの胞子を減らしましょう。
水飲み場は複数設置し、ぬるめの水で飲水量をしっかり保ちましょう。
■ アレルゲン・刺激物を避ける
タバコの煙、強い芳香剤、スプレー式の洗剤などは使用を控えめにしましょう。
併せて、空気清浄機のフィルターやエアコン内部の定期的な掃除も行うと、より安心です。
また、お散歩後は口まわり・鼻の下・足先をやさしく拭き取ることで、付着した花粉や汚れを落とすことができます。
■ 栄養と休養で免疫を支える
消化の良いフードと十分な休養が基本です。
もし食欲が落ちているようなら、フードをぬるめに温めて香りを立たせる、食器の高さや場所を変えてみるなどの工夫も効果的です。
また、フードを変更する際は、7〜10日ほどかけて少しずつ切り替えるようにしてください。
■ ワクチンで感染症を予防
犬では混合ワクチン(ジステンパー、パルボ、アデノ、パラインフルエンザなど)、猫では三種混合(ヘルペス・カリシ・パルボ)が基本です。
ドッグランやペットホテルの利用、多頭飼育など、生活スタイルや持病の有無に応じて、その子に合ったスケジュールを主治医と相談しながら決めていきましょう。
特に子犬・子猫の初年度は、複数回の接種と追加接種(ブースター)がとても重要です。
▼予防診療の重要性についてはこちらで解説しています
犬や猫の呼吸器トラブルは、気温差・乾燥・感染症・環境からの刺激、そして体質など、さまざまな要因が重なって起こります。
小さな咳や鼻水といった初期サインに早めに気づき、室内の環境を整えて、無理のない生活リズムを保つことが、もっとも確実な予防につながります。
もしも「呼吸がいつもより速い」「胸やお腹を大きく動かしている」といった変化が見られたら、早めの受診をおすすめします。
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