変性性脊髄症は、ゆっくりと麻痺が進行する脊髄の病気で、日本ではウェルシュ・コーギー・ペンブロークでの発生が増えています。
初期には後ろ足のふらつき程度ですが、徐々に病変部が広がり、最終的には呼吸困難や嚥下障害などが起こります。
治療法のない難しい病気ですが、早期に発見して介入をはじめることで、変性性脊髄症であっても飼い主さんと愛犬の幸せな時間を少しでも長くすることができる可能性があります。
変性性脊髄症は、1973年にジャーマン・シェパードに多い病気として初めて報告された病気です。遺伝的な要因も疑われていますが、正確な原因はまだわかっていません。
さまざまな犬種での発生が報告されていますが、日本では特にウェルシュ・コーギー・ペンブロークでの症例が増えています。
コーギーでは、10歳を過ぎたあたりで発症することが多いとされています。
背中の脊髄で発病し、無症状の時期を経てから、後肢のふらつきなどが見られるようになります。麻痺が進むと、後肢の交差や、完全な麻痺が見られます。
痛みはないため、動かない後肢で無理に歩こうとして足先を怪我することもあります。
2〜3年かけて進行し、徐々に前肢の麻痺や尿・便失禁が見られ、頚部の脊髄や脳にまで病変が広がると嚥下障害(読み方:えんげしょうがい、口の中のものを上手く飲み込めなくなる状態のこと)や呼吸困難などが起こるとされています。
確定診断には脊髄組織の病理組織学的検査が必要ですが、これを生前にすることはできません。症状や犬種、各種検査の結果を組み合わせることで、総合的に診断します。
血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT、MRI、脳脊髄液検査、遺伝子検査などを行います。
治療法はないため、治療はQOL(生活の質)の向上を目的に行われます。
発症初期には足先の保護やリハビリテーション、負担を減らすための体重管理などを行い、進行度合いに合わせて犬用車椅子の使用や排泄の介助(オムツ、圧迫排尿、尿道カテーテルなど)、床ずれ防止のために床材やベッドの工夫、体位変換などを行います。
終末期には酸素供給や食事・飲水の介助が必要になります。
徐々に介護の負担も増えるので、獣医師や動物病院のスタッフと協力しながら進めていきましょう。
原因がはっきりしていない病気ですので、残念ながら予防法はありません。
大変難しい病気で治療も困難な部分もありますが、早めに介入することも重要です。
初期に見られる後肢のふらつきは、椎間板ヘルニアなど他の疾患でもよく現れる症状ですので、疑わしい場合は早めに診察を受け、原因に沿った適切なケアを受けましょう。
光が丘動物病院グループ
東京都練馬区に本院を置き、東京都内、埼玉県で4つの動物病院を運営しています
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<参考文献>
Joan R Coates, Fred A Wininger. Canine degenerative myelopathy. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2010 Sep;40(5):929-50.
Giuseppe Spinella, Piera Bettella, Barbara Riccio, Samuel Okonji. Overview of the Current Literature on the Most Common Neurological Diseases in Dogs with a Particular Focus on Rehabilitation. Vet Sci. 2022 Aug 13;9(8):429.