去勢手術をしていれば良かった…と飼い主様が感じる、オス犬が遭遇する4つのトラブル
「うちの子、去勢したほうがいいのかな?」「手術をしない選択肢もあるの?」
愛犬を迎えた飼い主様の多くが、一度はこのような疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。
犬の去勢手術は、望まない繁殖を防ぐだけでなく、病気の予防や問題行動の抑制といった目的もあります。しかし一方で、「麻酔が心配」「性格が変わってしまうのでは?」といった不安の声も少なくありません。
そこで今回は、去勢をしない場合に起こりやすいリスクとよくある誤解や不安点、そして去勢のメリット・デメリットについて、飼い主様にわかりやすく解説します。

■目次
オス犬が去勢されていない状態では、性ホルモン(主にテストステロン)が体内に多く分泌されます。これは自然なことですが、年齢を重ねるにつれて以下のような問題が現れることがあります。
・行動面でのトラブル(マウンティング、マーキング、攻撃性など)
・生殖器系の病気(前立腺肥大や精巣腫瘍など)
・他犬や人との関係性の悪化
・高齢になってからの病気による手術リスクの増加
若いうちは問題がなくても、中高齢になってからトラブルが目立ち始めるケースも多く、予防の意味で去勢を選ぶ飼い主様も増えています。
去勢手術を受けないまま成長すると、日常生活の中で予期せぬトラブルに直面することがあります。ここでは、実際の動物病院でも多く見られる代表的なケースをご紹介します。
1. 攻撃行動によるトラブル
愛犬が他の犬に噛まれてしまった、あるいは噛んでしまった。
こうしたトラブルで動物病院を訪れる飼い主様は少なくありません。場合によっては、噛んだ犬・噛まれた犬の両方が来院され、加害側の飼い主様が気まずい思いをされることもあります。傷が深い場合には縫合や入院が必要になることもあり、思わぬ大きな問題に発展することもあります。
また、犬同士だけでなく、人に対して攻撃的な行動が見られることもあります。例えば、散歩中に通行人に突然噛みついてしまうケースなどです。そうした場合、動物病院では感染症の有無なども確認する必要があります。
もちろん、攻撃性がすべて「未去勢だから」という単純な理由で起こるわけではありません。ただし、雄性ホルモンが攻撃的な行動を引き起こしやすくする傾向があるのは事実です。
さらに、トラブルが起きた際に「未去勢」であることが、相手側にあまり良い印象を与えないこともあるため、飼い主様にとっても精神的な負担となる場合があります。
2. マウンティングによるトラブル
攻撃行動に限らず、日常生活で「困った行動」としてよく見られるのがマウンティングです。
他犬や人に対してマウンティング行動を繰り返す犬は、周囲に不快感を与えてしまうことがあります。腰を振るこの行動は性的な意味合いだけでなく、「相手より優位に立ちたい」という支配欲から起こることもあります。
マウンティングはメス犬や去勢済みのオス犬でも見られることがありますが、やはり未去勢のオス犬で多く見られます。
ドッグランやお散歩仲間との関係にも影響し、「ちゃんと去勢してよ」と言われてしまうケースもあります。
▼去勢しても犬のマウンティングがなくならない理由についてはこちらで解説しています
3. 前立腺肥大・会陰ヘルニアなどの病気
未去勢のオス犬に非常に多いのが、前立腺の病気です。
中でも「前立腺肥大」は、雄性ホルモンの影響で年齢とともに進行しやすく、次第に排尿や排便がしづらくなるのが特徴です。尿に血が混じったり、便が細くなったりすることもあります。
▼前立腺肥大についてはこちらで解説しています
さらに、前立腺肥大が進行すると「会陰ヘルニア」という病気を引き起こすことがあり、肛門周囲の筋肉が弱まって腸や膀胱が飛び出す状態になることもあります。これは痛みや排便障害を伴い、愛犬の生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
▼会陰ヘルニアについてはこちらで解説しています
症状が出てしまった段階では、結局「精巣の摘出手術(去勢)」が必要になるケースがほとんどです。
しかし、これらの病気は高齢で発症することが多く、その分麻酔のリスクも上がってしまいます。手術への不安が大きくなるのも現実です。
「若いうちに去勢しておけばよかった」と感じる飼い主様が多いのも、このような経緯によるものです。
▼麻酔時の獣医師のチェックポイントについてはこちらで解説しています
4. 腫瘍のリスク(精巣腫瘍・肛門周囲腺腫など)
未去勢のオス犬では、年齢を重ねるにつれて、精巣に腫瘍ができるリスクが高まっていきます。
特に「停留精巣」といって、精巣が陰嚢内に下りてこない状態では、体内の温度が影響し、腫瘍化の可能性がさらに高くなります。
▼停留精巣についてはこちらで解説しています
また、「肛門周囲腺腫」という肛門のまわりにできる腫瘍も、去勢していないオス犬でよく見られる病気です。
一見すると良性の腫瘍であっても、再発を繰り返すことが多く、悪性の場合は転移して命に関わるケースもあります。
▼肛門周囲腺腫についてはこちらで解説しています
術後の管理や通院回数、治療費もかさみやすくなります。
去勢手術には、病気の予防や問題行動の軽減といった大きなメリットがある一方で、デメリットも存在します。
大切なのは、愛犬の性格や健康状態、年齢などを踏まえて、一頭一頭に合った選択をすることです。
・前立腺肥大や腫瘍などの病気の予防
・問題行動(マーキング、マウンティング、攻撃性など)の軽減
・繁殖行動に関するストレスの緩和
・平均寿命の延長につながる可能性も
・全身麻酔のリスク(特に高齢・持病のある子では注意)
・代謝の変化により太りやすくなることがある
・性格が少し落ち着くことで「元気がなくなった」と感じることも
当院では、こうしたメリット・デメリットの両面を丁寧にご説明したうえで、年齢や性格、生活環境なども含めて総合的に判断し、それぞれのご家庭に合った最適なタイミングや方法をご提案しています。
気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
去勢手術を受けた飼い主様の中には、さまざまな思いを抱かれる方もいらっしゃいます。
「若いうちに手術をしていれば、病気を防げたかもしれない」と悔やまれるケースもあれば、「手術後に太りやすくなって、もっと準備すればよかった」と感じる方もいます。
なかには「しなければよかった」と後悔する声もありますが、その多くは事前の準備不足や情報不足が原因で起こることがほとんどです。
だからこそ、納得のいく選択をするためには、事前にしっかりと相談し、理解を深めておくことがとても大切です。
Q. 去勢しないと寿命は短くなりますか?
A. 個体差がありますが、病気や事故のリスクを考えると、去勢した犬のほうが健康寿命が長くなる傾向があるといわれています。
Q. 性格は変わりますか?
A. 攻撃性や興奮しやすさが落ち着く子もいますが、「おとなしくなりすぎる」など極端な変化はほとんどありません。
Q. 去勢に適した時期は?
A. 生後6〜12か月頃が目安ですが、体格や成長、性格、生活環境によって異なります。まずは一度ご相談ください。
Q. メス犬とは何が違う?
A. メス犬の避妊手術では子宮・卵巣を摘出するため、手術時間や回復期間が異なります。オスの去勢手術は比較的短時間で済みます。
去勢手術は「絶対にするべきもの」ではありませんが、将来の病気や行動トラブルを未然に防ぐ有効な方法です。
愛犬の性格や体質、飼い主様のライフスタイルによって最適なタイミングや選択は異なります。重要なのは「後悔しないように、よく知って、よく相談すること」です。
当院では、去勢に関するご相談はもちろん、手術前後のケアや体調管理についても丁寧にご案内しています。「ちょっと気になっている」「でも不安がある」という方も、まずはお気軽にお話をお聞かせください。
👉 詳しくはこちら|去勢・避妊手術について(光が丘動物病院)
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