犬鞭虫という5~7cmほどの白く細い「鞭(むち)」のように見える吸血性の寄生虫によって引き起こされる病気です。
少数寄生の場合にはほとんどが無症状ですが、犬鞭虫に多数寄生されると大腸が障害を受けて大腸性の下痢を生じ、粘液や血の混じった下痢便を少量ずつ何度もするようになります。
また、犬鞭虫は吸血性寄生虫であるため、下痢だけでなく貧血もみられます。
鞭虫症(べんちゅうしょう)は、感染した犬のフン便とともに排泄された虫卵が、何らかの拍子で口に入ることにより感染します。
虫卵は胃から小腸、大腸へと移行し、孵化します。約3カ月で幼虫が成虫になり、盲腸の壁に付着して吸血します。
たとえば、虫卵が混じった水たまりの水をなめたり、足などの体表に付着していた虫卵をグルーミングの際に飲み込んだりした時に感染します。
親犬から仔犬への胎盤感染などは起こらないため、幼い子犬が感染ることはほとんどありません。重度感染では、回腸や結腸といった他の大腸部分や、時に小腸の下部にも寄生し、症状がひどくなることがあります。
糞便検査で鞭虫卵を確認することで診断されますが、数多く感染していても見つかりにくい寄生虫です。難治性の下痢や血便など、疑いがある場合には何回か糞便検査を繰り返す必要があることもあります。
治療には駆虫薬を飲ませますが、鞭虫卵は抵抗力が強いため、駆虫薬を何回か使用しないと駆虫できない場合もあります。
都市部では診られることも少なくなってはいますが、予防のためにも散歩などの際には他の犬の糞便には愛犬を近づけさせないようにしましょう。
6歳 ラブラドールレトリバー
間欠的な嘔吐・下痢が3週間続いている。
便の状態は水様で、少量の血液が付着していました。
身体検査では脱水と削痩がみられましたが腹部触診では明らかな異常は認められません。
慢性的な下痢で体重減少もみられることから糞便検査、血液検査を行いました。
血液検査では白血球の軽度上昇、電解質異常が認められました。糞便検査では鞭虫卵が確認されました。
以上の結果から鞭虫寄生による下痢・嘔吐が強く疑われました。
治療は、重度の脱水がみられたために三日間入院して点滴を行い、その間駆虫薬の投与も行いました。退院後は消化器症状は治まり体重も順調に増えています。
鞭虫卵
鞭虫成虫