股関節では、正常であれば太ももの骨(大腿骨)の先端(大腿骨頭)が骨盤のへこみ(寛骨臼)にしっかりはまっていますが、これが外れてしまった状態を股関節脱臼と呼びます。
犬でも猫でも、交通事故や落下事故など、大きな外力を受けたときに起こりますが、股関節形成不全やレッグ・カルベ・ペルテス病などといった形態異常も原因になります。
股関節脱臼の犬や猫では、特徴的な歩き方が観察されたり、痛みから後肢を上げて負重しなくなったりします。
目次
1.原因|強い外力、股関節の異常、ホルモン病など
2.症状|事故では股関節の痛みから負重できずに後肢を上げる。関節の病気では軽い歩行の異常も
3.診断|身体検査やレントゲン検査
4.治療|全身麻酔をかけて、外科的もしくは非観血的に整復する
5.予防|リスクのある犬種や猫種では、肥満や段差などに注意
人間と同じように、脱臼や骨折は、交通事故や高所からの落下のような強い外力が加わったときに起こります。
しかし、股関節に形態的な異常や緩みがある犬や猫では、そもそも脱臼が起こりやすく、少しの段差やジャンプなど、日常生活の中でも脱臼してしまいます。
このため、股関節形成不全やレッグ・カルベ・ペルテス病を発症しやすい犬種や猫種では、特に注意が必要です。
前者は若い大型犬に、後者は若い小型犬に多いことが知られています。
ほかにも、副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症といったホルモンの病気、あるいは加齢による筋力の低下から関節を支える力が弱くなり、関節が緩みやすくなることで脱臼のリスクが上がります。
股関節形成不全についてはこちらのページで詳しく解説しています
レッグ・カルベ・ペルテス病についてはこちらのページで詳しく解説しています
副腎皮質機能亢進症についてはこちらのページで詳しく解説しています
甲状腺機能低下症についてはこちらのページで詳しく解説しています
事故や落下が原因の場合は強い痛みを伴うので、負重できずに引きずったり、上げたまま3本足で歩いたりします。
ただ、何度も繰り返し発症している場合などでは、痛みがあまり出ずに脱臼した足を上手に使って歩くこともあるため、見た目からはわからないこともあります。
その他の関節の病気が原因の場合は、関節の緩みによって、初期には軽度な歩行の異常が見られます。
特に股関節形成不全では、腰を振るように歩く様子(モンローウォーク)が特徴的です。
ただし、年齢を重ねるにつれて病気が進行すると脱臼している後肢に痛みが生じるため、同様の症状が現れてしまいます。
立ち方、歩き方などの観察や関節を動かす身体検査などから推察し、レントゲン検査などで診断します。痛みは特に後肢を後ろに引くと強く出るため、診察ではこれを確認します。
また、肘や膝といった他の骨や関節にも異常がないかどうかを確認することが重要です。
脱臼した側の足を引っ張って捻りながら外れた大腿骨頭を寛骨臼にはめなおす非観血的(生体を切開せずに行う処置のこと)な整復法と、外科的に股関節脱臼を治す観血的な方法があり、どちらも全身麻酔が必要です。
非観血的な整復法で治ることもありますが、形態的な異常がある場合などでは再脱臼しやすいため、外科手術での治療をお勧めします。
外科手術にはいくつかの方法がありますが、どの方法を用いるかは犬や猫の体重や状態から検討します。
当院で実施している術式の1つである、大腿骨頭切除(FHO)については別のページでも紹介しています。手術について詳細に知りたい方は、当院までご相談ください。
大腿骨頭切除についてはこちらのページでも詳しく解説しています
※手術中の画像が掲載されておりますので、ご注意ください
強い外力がかかるような事故を防ぐとともに、股関節形成不全など関節の形態異常がある犬や猫では肥満を予防する、段差にスロープをつけるなど、関節に負担がかからないよう日頃から注意をしましょう。
また、猫は外出時の交通事故や落下事故による股関節脱臼も多いものの、これは室内飼いの徹底により予防できるでしょう。
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<参考文献>
Demko JL, Sidaway BK, Thieman KM, Fox DB, Boyle CR, McLaughlin RM. Toggle rod stabilization for treatment of hip joint luxation in dogs: 62 cases (2000-2005). J Am Vet Med Assoc. 2006 Sep 15;229(6):984-9.
Meeson RL, Strickland R. Traumatic joint luxations in cats: Reduce, repair, replace, remove. J Feline Med Surg. 2021 Jan;23(1):17-32.