ある日突然、愛犬や愛猫が嘔吐したり、下痢をしたりすると、「少し様子を見ていても大丈夫なのか」「それとも、すぐに動物病院へ連れて行くべきなのか」と迷われる飼い主様は少なくありません。
嘔吐や下痢は、急性胃腸炎によく見られる代表的な症状です。
急性胃腸炎とは、比較的強い症状が短期間に現れる胃腸の炎症のことで、反対に、ゆるやかな症状が長く続くものは「慢性胃腸炎」と呼ばれます。
ただし、一見同じように見える嘔吐や下痢でも、その原因はさまざまで、状態に応じた正しい判断と対応が必要です。
今回は、犬や猫の急性胃腸炎の主な原因や、動物病院を受診すべきかどうかを見極めるポイント、そしてご自宅でできるケアの方法について解説します。
■目次
犬や猫の急性胃腸炎には、さまざまな原因が考えられます。
主なものとしては、食事、ストレス、感染症、誤飲、そしてアレルギーなどが挙げられます。
◆食事によるもの
私たち人間と同じように、犬や猫も腐ったものや食べ慣れないもの、脂っこいものを口にすると、胃腸に負担がかかり、急性胃腸炎を起こすことがあります。
特に、ゴミ箱の中のものや道に落ちていたものを食べてしまうことで「食あたり」を起こすケースも少なくありません。
また、ドッグフードやキャットフードを急に切り替えることで胃腸に負担がかかり、症状が出ることもあります。
フードの変更は、一度に切り替えるのではなく、現在のフードに少しずつ混ぜながら、7〜10日ほどかけてゆっくりと移行するようにしましょう。
◆ストレスによるもの
旅行や引っ越しといった環境の変化、近隣での工事による騒音、来客、さらには家族構成の変化(新しい家族が増えたり、逆に減ったり)といったことも、犬や猫にとっては大きなストレスになります。
こうした精神的なストレスが、胃腸に影響を与え、急性胃腸炎を引き起こすことがあります。
▼ストレスサインについてはこちら
◆感染症によるもの
ウイルスや細菌、寄生虫などへの感染が原因で急性胃腸炎を起こすこともあります。
特に注意が必要なのは、犬パルボウイルス、ジステンパーウイルス、コロナウイルス、サルモネラ菌、カンピロバクター菌などです。
中でもパルボウイルスやジステンパーウイルスは、重症化しやすく、命に関わる危険性もあります。
これらの感染症は、定期的な混合ワクチン接種で予防することがとても大切です。
▼ワクチンについてはこちら
◆誤飲によるもの
おもちゃや紐、ビニールなど、消化できないものを誤って飲み込んでしまうと、胃や腸の中にとどまり、物理的な刺激となって胃腸炎を起こすことがあります。
さらに、腸に詰まってしまうと腸閉塞を起こし、手術が必要になるほど危険な状態になることもあり危険です。
▼腸閉塞についてはこちら
また、農薬や殺虫剤、洗剤などの有害な物質を誤飲してしまった場合は、胃腸炎だけでなく中毒症状を引き起こす可能性もあります。
◆アレルギーによるもの
アレルギーとは、本来であれば体に害のないものに対して、免疫が過剰に反応してしまう状態を指します。
犬や猫では、特に食物アレルギーが原因となり、急性胃腸炎を引き起こすことがあります。
たとえば、いつもと違うおやつや新しいフードを食べたあとに嘔吐や下痢が見られた場合、アレルギーの可能性も考えられます。
▼食物アレルギーについてはこちら
愛犬や愛猫が嘔吐や下痢をすると、すぐに動物病院へ行くべきか、それとも少し様子を見るべきか迷われることもありますよね。
基本的に、嘔吐や下痢があっても元気や食欲があり、1回きりの軽い症状であれば、1日程度様子を見ても問題ないことが多いです。
ただし、以下のようなケースでは、早めの受診が必要です。
・元気がなく、食欲も落ちている
・明らかに無気力で、ぐったりしている
・嘔吐や下痢を何度も繰り返している
・お腹に触ると嫌がったり、痛がったりする
・誤飲の可能性がある(おもちゃや異物など)
・嘔吐物や便に血が混ざっている
・黒くてドロッとした便が出ている(※消化管内で出血している可能性があります)
さらに、子犬や子猫、高齢の犬や猫の場合は、体力や免疫力が弱いため、軽い症状でも急速に悪化するおそれがあります。
そのため、症状が軽く見えても、なるべく早めに動物病院を受診することをおすすめします。
動物病院で急性胃腸炎が疑われる場合、まずは問診が非常に重要になります。
そのため、診察の際には、以下のような点について丁寧に聞き取りが行われます。
・症状が出る前にフードの変更はなかったか
・拾い食いや誤飲の可能性があるか
・引っ越しや来客、近隣の工事など、環境の変化によるストレスはなかったか
また、下痢や軟便といった症状がある場合には、便の状態を調べる「糞便検査」を行い、細菌や寄生虫の感染がないかを確認します。
さらに、便を外部の検査機関に送って精密検査を行うことで、細菌や寄生虫だけでなく、ウイルス感染の有無を調べることも可能です。
症状が強い場合や、急性胃腸炎のほかに膵炎など別の病気が疑われるときには、より詳しい検査として、以下のような検査が必要になることもあります。
・血液検査
・レントゲン検査(X線)
・超音波検査(エコー)
これらの検査を組み合わせて行うことで、より正確な診断ができるようになります。
犬や猫が急性胃腸炎と診断された場合、まずは症状の程度や全身の状態を見ながら治療方針が決まります。
症状が軽い場合には、点滴やお薬(制吐剤や整腸剤など)を使いながら経過を見る「対症治療」が行われることが一般的です。
この段階でしっかり反応が見られれば、多くの場合、数日以内に症状は改善します。
ただし、治療にあまり反応しない場合や、いったん良くなっても再び症状が出るようなケースでは、急性胃腸炎以外の病気が関係している可能性もあります。
その際には、必要に応じて追加の検査を行い、病気の原因を詳しく調べた上で、継続的な治療が必要になることもあります。
また、症状が強く脱水が進んでいる場合や、嘔吐・下痢の頻度が高い場合には、入院して集中的な治療を行うこともあります。
動物病院で急性胃腸炎と診断され、治療を受けた後は、ご自宅での過ごし方や観察がとても大切になります。
◆体調の変化を記録しておきましょう
治療後も、嘔吐や下痢が完全におさまるまでには時間がかかることがあります。
そのため、次の診察時に備えて、以下のような情報を記録しておくと安心です。
・嘔吐や下痢の回数・時間帯
・便や吐しゃ物の色やにおい、形状
・元気や食欲の有無、普段との違い
◆水分の与え方に注意しましょう
嘔吐が続いた直後は、すぐにたくさんの水を飲ませると、再び吐いてしまうことがあります。
飲みたがる様子が見られても、少し時間をおいてから、口を潤す程度の量を少しずつ与えるようにしましょう。
◆落ち着いた環境でゆっくり休ませましょう
治療後はなるべく静かで落ち着いた環境を整え、そっと見守るように過ごしてあげることが大切です。
◆自己判断での食事調整や投薬は避けましょう
「胃腸を休ませるために食事を抜いた方がいいのかな」と思われることもあるかもしれませんが、食事量の調整は必ず獣医師の指示に従ってください。
年齢や体力、回復の状況によって必要な対応は異なります。
また、人間用の薬や市販薬を自己判断で与えることは絶対に避けてください。
人には安全でも、犬や猫には毒性をもつ成分が含まれている場合があります。
どのような薬も、必ず獣医師の指示のもとで使うようにしましょう。
治療後であっても、症状が再び出てきた場合や、元気や食欲が戻らないときは、早めにかかりつけの動物病院へご相談ください。
「いつもと違う」と感じた飼い主様の気づきが、愛犬・愛猫の健康を守るきっかけになります。
急性胃腸炎は、犬や猫によく見られる消化器のトラブルのひとつです。
軽い症状であれば、ご自宅で様子を見て問題ないこともありますが、急に悪化するケースもあるため、慎重な判断が必要です。
「すぐに受診した方がいいのかな?」「少し様子を見ても大丈夫かな?」と迷ったときには、かかりつけの動物病院に電話で相談してみましょう。
また、初めての症状で不安なときや、元気や食欲があっても嘔吐や下痢が続く場合は、できるだけ早めに受診されることをおすすめします。
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